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AIコミュニケーション

会話設計の基本——「言われていないこと」をどう汲むか

Response Calibration 編集部 · 約3分 ·

要点

  • 会話設計の難しさは、文法ではなく「言われていないことをどう汲むか」にある。
  • 言語哲学者グライスの協調の原理は、人が会話で何を暗黙に期待しているかを言語化した枠組みだ。
  • その四つの公準(量・質・関係・様態)は、対話システムの応答を点検する道具にもなる。
  • ただし、公準を律儀に守りすぎると、かえって不自然な応答になることもある。

「近くにいい店ある?」とユーザーが尋ねたとする。設計の悪い対話システムは、こう返すかもしれない。「『いい店』の定義を入力してください」。文法的には正しい。だが人間同士なら、こんな返しはしない。相手は料理のジャンルや価格帯を察し、いくつか候補を挙げるだろう。会話設計の核心は、この「察し」をどう扱うかにある。本稿では、その手がかりを言語哲学から借りてくる。

協調の原理という補助線

言語哲学者ポール・グライスは、1975年の論文で「協調の原理」を提示した。会話の参加者は、互いに目的に沿って協力していると暗黙に前提している、という考えだ。だからこそ、明示されていない情報を相手は補ってくれると期待できる。グライスはこの原理を、四つの公準として整理した。必要なだけの情報を出す(量)、真と思うことを言う(質)、話題に関連したことを言う(関係)、明快に言う(様態)——この四つである。

これらは、人が会話で破られると違和感を覚える暗黙のルールだと言える。対話システムが不自然に感じられるとき、たいてい、このどれかが破られている。

公準を点検の道具にする

先の「近くにいい店ある?」への悪い応答は、「量」の公準を破っていた。相手が必要としている以上の前提確認を求め、肝心の候補を出していない。良い応答は、まず手元の情報で候補をいくつか示し、足りなければ一点だけ絞り込む。「関係」の公準でいえば、質問と無関係な機能の宣伝を差し込む応答も、人を白けさせる。「様態」でいえば、専門用語で過剰に正確に答えるより、相手の語彙に合わせた明快さが優先される。

こう見ると、四つの公準は、応答の良し悪しを言語化するための便利な点検表になる。謝罪と信頼の設計でも、この枠組みは下敷きになる。

律儀すぎる応答の不自然さ

もっとも、公準を機械的に守れば自然になるわけではない。たとえば「質」の公準を厳格に適用し、少しでも不確かなことは一切言わない設計にすると、システムは「分かりません」を連発するようになる。人間の会話では、確信度に幅をつけながら見込みを述べることが、むしろ協力的とされる。「たぶんこちらだと思いますが、念のため確認します」という応答は、厳密には不確かを含むが、会話としては自然だ。

一方で、不確かさを示さずに断定する応答は、当たっているうちは快適でも、外したときの失望が大きい。応答のトーンの問題ともつながるが、確信度の出し方そのものが、信頼の設計の一部になる。

察しを設計に翻訳する

会話設計とは、人が無意識に従っている協力のルールを、明示的な設計判断に翻訳する作業だと言える。グライスの枠組みは、その翻訳のための語彙を与えてくれる。どの公準を、どの場面で、どの程度守るか——それを場当たりでなく意識的に決めること。裏を返せば、自然な会話とは、ルールを完璧に守ることではなく、いつ厳格にし、いつ緩めるかを適切に選ぶことから生まれる。

出典・参考

  • H. Paul Grice「Logic and Conversation」(1975)——協調の原理と会話の公準
  • 会話設計(conversation design)における暗黙的文脈の取り扱いに関する一般的議論

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